藤原 彩陽
私の母は、よく税金に対しての文句を言う。私達が住んでいる家は、消費税が5%から8%に増税される直前に建てたもので、3%得したと母は自慢気に話す。私達の家庭にとって、税金は敵だと感じていた。
しかし、そんな憎き税金に対する母の考え方が、数年前のある出来事をきっかけに少し変わった。母の親友が離婚したのだ。彼女には小学生と中学生の子供がいて、家事と育児をしながら、二人を育てる収入を得るのは難しかった。そんな時、国や県、市が手を差し伸べてくれたのだ。病院では無料で診察を受けられ、学校では、無料で給食が提供され、さらには現金の支給もあった。これらはすべて税金を財源とする、国民の「安心」や生活の「安定」を支える、社会保障制度のおかげである。
「私達の税金で〇〇ちゃんを少しでも楽に出来ると考えると、嬉しいなあ。」と、穏やかな顔で話していた。そんな母を見て笑ってしまったが、同時に私も、自分が払っている税金がどのように使われているのか、考えた事がなかった事に気づかされた。「敵を知るにはまず味方から。」物事を理解するには、まず身近なことや、自分に関わる事から知るべきだ、という教訓だ。私は改めて、税金が私達の身近でどのように使われているのかを考えてみることにした。
その時、母に見せてもらった録画映像を思い出した。母は、和歌山県が地元ではない。結婚と同時に引っ越してきた為、友人も頼れる人も少なく、寂しい思いをする事が多かったという。そんな時、ぶらくり丁にあるキッズステーションを知り、私の姉を連れて通い始めた。そこで母は心を許せるママ友を作り、私も姉も大親友を得る事が出来た。後に私は、キッズステーションがNPO法人であり、国や地方自治体からの助成金や補助金を受けて運営されている事を知った。その助成金や補助金は、私達が納めている所得税や法人税、消費税といった税金が原資となっている。つまり「敵」だと思っていた税金が、実は私達家族を支える大切な「味方」であった事に気付いたのだ。
映像の中で、母はテレビのインタビューに応えていた。まだ小さかった姉を抱いた若い母が、あなたにとってキッズステーションとは?という問いに少し考え、にっこり笑って答えていた。「徳島県出身の私にとって、和歌山の実家です。」と。
そして今、その母はキッズステーション後継施設である「くすの木」で働き始め、かつての自分と同じように、困っている人達を支援している。税金は巡り巡って、今や母の収入となっているのだ。