谷本 すばる
「人の役に立てて喜んでもらえたらうれしいよ」。父は笑顔で自分の仕事について語った。私の父は水道施設業の仕事をしており、耐震管の布設や配水池に緊急遮断弁を設置する工事のほか田辺市災害協定に基づき災害発生時に水道施設の早期復旧を図るため災害現場で応急復旧工事に従事する任務を担っている。平成二十三年台風十二号紀伊半島大水害が発生し市内約二千五百戸が断水した。父は市の要請をうけて甚大な被害を受けた伏莵野地区の復旧に向かった。県道は崩壊し台風が去った後も寸断された道路のいたるところで土砂が散乱していた。車を放棄し仮設配管に必要な材料を担いで現場まで歩いて何度も往復するしかなかった。地元の人から安全なルートを教わったそうだが私なら崩れた道を材料を担いで歩くなんて足がすくんでしまう。「怖くなかったん。」「うん。水が今までのように使えないって不便やろ。伏莵野の人たちが朝晩寒くなってくる季節までにあったかいお風呂に入れるようにしてあげたかったんや。それだけを考えてた」。不安と混乱の中、父は水道を復旧して人々を元気づけた。
災害による被害を復旧し生活を再建するためにはたくさんのお金が必要となる。政府は台風十二号の豪雨災害を激甚災害に指定し、和歌山県も六七二億円余りの補正予算を組んで被害対応や復興支援を行った。被災地の方々が一刻も早く元の生活を取り戻すために税金が大きな役割を果たしたことを知り、とても心強く感じた。仮設住宅の建設や飲食物の配給、土砂の撤去作業など税金がなければ被災地を救えなかっただろう。では私たちにできることは一体何だろうか。
突然の災害による被害をできるだけ少なくするためには一人一人が自ら取り組む自助、地域や身近にいる人同士が助け合って取り組む共助、国や地方公共団体などが取り組む公助が重要だと言われている。これは防災の取り組みだけでなく税の役割に関しても言えることではないだろうか。自助と共助の意識を持って納められた税金が公助という形で私たちを守り支えてくれている。つまり税金を納めることは誰かの役に立つことにつながっており私たちは助け合って生きているのだ。相互扶助の仕組みのすばらしさに感動し納税の大切さや税のありがたさを私は実感した。
幼い頃、泥だらけの作業着で仕事をする父を嫌いだと思ったこともあった。「工事を通じて人とのふれあいも多いし、人の役に立てたらうれしい。」と仕事に励む父を今、心から尊敬している。私も誰かの役に立てるように心を込めて何事も丁寧にがんばり、「ありがとう。」と喜んでもらえるような人になりたい。そしていつの日か助け合って生きる社会の一員として納税の義務を果たし、父のように誇りを持って社会に貢献できる大人になれるように努力していきたい。