藤田 紗奈
遠くで闇を切り裂く救急車のサイレン。
それと同時に、父の携帯が震えだす。
「分かりました。すぐ向かいます。」
短くそう言って電話を切ると、父は、
「いってきます。」
短くそう言い残し、玄関の扉を閉める。
私はそんな姿にさびしさと誇りを感じた。
誰かが助けを求めている。
命の火が消えそうになっている。
食事中でも深夜でも父は迷わず現場へ駆けつける。
その姿にずっと憧れていた。
「すごいな」「かっこいいな」って。
父は救急救命士だ。
時間・場所に関係なく誰かを助けるために尽力する。
命を救けることは、日常の中にある一番尊い非日常だと思う。
私は高校生になり、進路を考えだすようになった。
「自分は何になろうか」そう考えたとき自然と浮かんだのは父の姿だった。
助けを求める声に応えられる人になりたい。
誰かに寄り添ってその命を守れる人になりたい。
私も、父と同じ救急救命士になりたい。
そう強く思った。
ある時、社会の授業で「税のしくみ」を学んだ。
その中にはもちろん消防のことが含まれていて「ああ、これが父の働く世界なんだ」と実感した。
真っ赤に光る消防車や、火から身を守る防火衣にも誰かが納めた税が使われていた。
そういえば、最近行った消防学校もそうだった。
税によって施設がつくられ、運営され、税によって雇用された消防吏員が、税によって住民を守るために活動するという税と密接に関わるシステムだった。
だからこそ、私は税によって、自分の救命救急士になりたいという夢が支えられているということに気づいた。
私が救命救急士になりたいと思ったのは父という存在が身近にあったから。
そして、その父をも支えていたのは税金の力。
音もなく、目立つこともないけど、誰かの命を守れる力。
きっと夢は一人で叶えられないだろう。
支えてくれる存在があるからこそ立ち上がれる。
私の場合は税という、誰かの未来を信じ、繋ぐ優しさが私を支えてくれる存在だった。
私はこれから救命救急士を目指して努力し続ける。
夢が叶って、現場に立つことができたなら、私を支えてくれた「税の力」を忘れずにいたい。
感謝し続けたい。
あの夜、サイレンとともに走り出した父のように今度は私が誰かの「助けて」に応える番だ。
税に支えられた夢が、誰かの命を救う未来になる。
今日も見知らぬ誰かが、どこかで、誰かの命を守っている。
私もまた、その祈りの連なりになれるだろうか。
私は一歩ずつ夢へと歩みだす。





