森本 健星
「太地はお金持ちでいいね」高校に入ってから、こんな言葉を友達から言われることがある——。
いつ頃からだったか、小中学校で給食費が無償になり、教材費も全額補助となった。中学校に入ってから、ようやくこれらのことが当たり前ではないのだと知る。ここ太地町は、子育て支援が非常に充実しており、義務教育を終えて高校に通う今もなお、僕はその恩恵にあずかっている。
太地町では高校卒業まで、乳幼児・就学児医療費助成を行っている。それだけでなく、町外へ通学する中高生の定期券全額補助、小中高入学祝い金5万円の支給、姉妹都市(オーストラリアブルーム)との交流事業なども、町が掲げる定住支援制度のひとつひとつである。そしてこれらは言うまでもなく、税金で賄われている。
子育て世帯が住みたいと思えるようなまちづくりを進めている太地町では、例にあげたように和歌山県内でみても子育てに対する支援が手厚い。だから近隣地域に住む友達からは、羨ましがられることがあるのかもしれない。しかしこれは「お金持ち」なんかではない。「税」という財源があってこそ、僕たちは支えられているのだから。
もちろん、税によって人、個人だけでなく、町全体も支えられている。太地町でいえば、「くじらのまち」として広く知られているという強みを活かした、町独自の取り組みが進められている。また2年前には太地駅が改築され、鯨を飾り付けた青色のご当地郵便ポストも設置されているほか、この町らしいイルカのステンドグラスが、訪れた人を明るく出迎えてくれる。この建物は駅としての機能だけでなく、南海トラフ地震の津波に備えた防災拠点も兼ねている。もちろんこの駅の建設費用全てが単純に税金から賄われているのではないだろうが、税金を使って建てられたこの建物が、巡り巡って人の命を救うことにつながるとも考えられる。
「クジラ一頭捕まえれば七浦潤う」日本の古式捕鯨発祥の地と言われるこの町で、伝えられてきた言葉がある。この言葉は税金に関しても言えるのでないか。税の恩恵も一つの行動が多くの人々に良い影響をもたらしている。鯨を将来にわたって永く継承し、地域資源として活かしていこうとするこの町の伝統を紡いでいくのにも、税金は不可欠である。
「こどもは町のたからもの」太地町がこう言ってくれている。次世代を担う僕たちを育てるための費用を、社会みんなで負担してくれている。このことを決して忘れてはならない。今はまだ、支えてもらうばかりで、できることは数え切れるくらいのことしかないかもしれない。でも、大人になって自分で収入を得られるようになったとき、その時を生きる子供や、よりよい日本、地域社会のために「自分から納める」、そんな意識を持って税と向き合っていきたい。